自然治癒力を大切にした医療

ドキュメンタリー映画「蘇れ生命(いのち)の力~小児科医 真弓定夫~」を観て思うこと

 

 (前提として、以下に書くのは一般的な風邪診療についてのみです。医学の発展によって救えるようになった命、予防できるようになった病気がたくさんあるので、必要時には薬もワクチンも感謝して恩恵を受けるべきと考えます。)

 

数年前に真弓定夫医師のドキュメンタリー映画を観る機会をいただきました。そこで私は自分の診察スタイルを大きく見直すきっかけをいただきました。

 

 

真弓先生の診察スタイルは、一般的な小児科医とは全く違っていました。資本主義(金儲け)とは完全に無縁で、愛と謙虚さに満ちていました。薬に頼らず、自然治癒力を導くための生活指導に全力を注がれていました。

それは目先の症状に対する診療にとどまらない、何十年も先を見据えた診療でした。逆に今の日本の小児医療には予防医療の視点がすっかり欠落しているということにも気付かされました。

 

「電気代と寿命は反比例する」「野生動物と同じ生活をすれば病気にならない」などの印象的な言葉が多数ありました。また自らの生命も自然の一部ととらえ、自然な生き方を徹底的に貫いておられたので、口から教わる以上に背中で見せてくださる部分に大きな説得力を感じました。

 

私自身は昔から薬嫌いなので、真弓先生の診療に共感できる部分や反省させられる部分が多くありました。

我が子にはほとんど薬を使ったことがなく、その結果して我が子から風邪や胃腸炎の自然経過を学んできました。それにも関わらず、私は来院した方に薬を処方しているというのは、自分の信念にそぐわない医療をしているということに、真弓先生を通して気付くことができました。

逆になぜこれまでの自分がそうしてきたのかを考えると、研修医時代にみてきたベテラン医師のやり方が刷り込まれていることや、薬を求める家族に対して薬は要らないことの根拠を伝えるだけの知識がないことが原因でした。

 

そんな気づきをいただいたのと同じ時期に、小児科医会の勉強会に参加したところ、風邪に薬は要らないと名言する大阪の医師に出会いました。にしむら小児科の西村達夫先生です。この先生からも大事なことを教わりました。

西村先生の言葉を引用します。

「風邪に対して安易に薬を処方すると、単なる自然経過で良くなっただけであっても、母親は薬のお陰で早く良くなったと錯覚します。次に風邪をひくと薬なしで経過をみることが不安となり、医者に薬が欲しいと訴えます。医者は後で親から責められないための自己防衛も働き、何となく処方してしまいます。こうして無駄な処方が繰り返されてしまうのです。

逆に、薬に頼らないで我が子をしっかり観察しながら看病した母親はその経験を次に生かすことができます。また子どもの持つ治癒力に感動をもらいます。看病された子どもはお母さんからの愛情をたっぷり受け、お母さんが治してくれたと感じます。

そこに薬が介入することで、その貴重な経験を削いでしまっているのです。

医者が風邪診療に対してやるべきことは薬の処方ではなく、緊急性のある病気が隠れていないかを見極めるリスク管理と、自宅でのケアを母親に指導し励ますことです。」

 

また、西村先生は風邪の自然経過、すなわち熱や鼻咳症状が何日間ほど出て、どれくらいの期間で治るかの統計をとり、薬を飲んでも早く治らないというデータもとって、風邪を分かり易く説明されています。一日も早く治って欲しいと願う母に対して、慌てず待つように説得力をもって説明されています。

こうした薬を極力使わない医師が、学会で大勢のベテラン医師たちを前に講演されていたのです。

 

真弓先生や西村先生のような医療に賛同する医師が少しずつ増えて行けば日本の小児医療も明るいかもしれません。

 

初めての熱、初めての下痢、そんな初めての身体トラブル時に、どんな医師に出会い、どんな治療やアドバイスを施されるかは、親子が自然治癒力を信じられるか信じられないかの大きな分かれ道になるかもしれません。

 

私もそれを肝に銘じて、できるだけ薬に頼らない丁寧な風邪診療をしていきたいと思います。

 

≪かかりつけ医に一言いってみて!≫

「そのお薬を飲むと早く治りますか?」

「お薬を飲まなくても治りますか?」

「なるべくお薬を使いたくないのですが。」

など伝えてみてください。